私は、数年来、「諸徳の形成と秩序」を研究課題に掲げています。勇気、節度、謙遜、忍耐強さ等々といった「徳」です。多様な徳のそれぞれについて、その具体的な事例と概念的な分析をわかりやすく示して、人としてのあり方について考えを深める材料を提供することが念願です。秋学期からは本学での私の担当科目に「徳の倫理」が加わりますが、その科目で勉強の一端を示せればと考えています。
現代人に(欠けているがゆえに)求められる徳目ということでいうと、たとえば、日本語にも訳されたコント・スポンヴィル(1952- )の『偉大な徳についての小論』(1995)が参考になります。そこでは、礼儀正しさ、誠実さ、思慮深さ、節制、勇気、正義、心の広さ、同情、慈悲、感謝、謙虚、率直さ、寛容、純粋さ、優しさ、誠意、ユーモア、そして愛、が挙げられています(訳語は、中村昇他訳『ささやかながら、徳について』紀伊國屋書店、1999年による)が、どうお思いになりますか。
私は、これらはいずれも今あらためてその重要性を再認識するべきだと思っており、現在の授業の中でも折に触れて関連する話をしています。特に、上に「率直さ」と訳されているsimplicitéは現在の関心事です。この語は、「素朴さ」「純朴さ」「純真さ」とも訳されうる語で、場合によっては「単純」であるがゆえの「愚かさ」や「愚直さ」をも意味しうるものです。ある見方からすれば「愚直」とも評せられるような「純真さ」のもつ力、立派なことを成し遂げる力に注目しています。
ある人が、私の好きなある歌手を評して「純真さと優しさ(simplicité et gentillesse)」ということばを使っていたことも、関心を深めさせてくれました。
先日、5歳の子どもが「わたしにはやさしい力があるの」と言いました。「誰かにそう言われたの?」と尋ねると、「自分で思いついたの」と言います。幼児ですから「やさしい力って何?」と質したところで、説明できるはずもありませんし、どれほどの意味で言っているかもわかりませんが、このところ繰り返し言いますので、何か意味を見いだしているのかもしれません。私のほうも、「やさしさ」と「力」の結合について考える機会とヒントを与えられました。
今後も、人とのかかわり、読書など、いろいろなところに手がかりを見いだしつつ、徳について考えていきたいと思っております。
*なお、現代において徳を養うことの意義と問題点については、平成21年度の家庭教育専攻共同研究成果報告書『家庭教育学事始』所収の「徳倫理と徳育という課題」という小論に私の見解を述べておきました。もし少しでも関心を持っていただける方はお読みいただければと思います。『家庭教育学事始』には、家庭教育専攻に所属する先生方の昨年度の研究成果がわかりやすいことばで示されていますので、他の先生方のお書きになったものもぜひお読みください。
