25【五倫と三綱】
〈五倫〉
父子有親 父子親有り
親子間の関係をよく維持するための最も大事な心構えは「親」(一つになろうとするしたしみ)である。
君臣有義 君臣義有り
君臣間の関係をよく維持するための最も大事な心構えは「義」(状況に応じた正しい行動)である。
夫婦有別 夫婦別有り
夫婦間の関係をよく維持するための最も大事な心構えは「別」(各々の本分・職能を乱さない区別)である。
長幼有序 長幼序有り
年配者と若者の間の関係をよく維持するための最も大事な心構えは「序」(順序)である。
朋友有信 朋友信有り
友達の間の関係をよく維持するための最も大事な心構えは「信」(偽りのないまことの心)である。
〈三綱〉
君為臣綱 君は臣の綱(おおづな)たり
君は臣にとってその全行動様式の根本となる絶対的な存在である。
父為子綱 父は子の綱たり
親(父)は子にとってその全行動様式の根本となる絶対的な存在である。
夫為婦綱 夫は婦の綱たり
夫は婦にとってその全行動様式の根本となる絶対的な存在である。
前者の「五倫(ごりん)」は戦国時代に崩れてしまった家族倫理・社会倫理の立て直しを計って孟子(紀元前372頃~紀元前289頃)がそれ以前の教えに基づいて具体化したもの、後者の「三綱(さんこう)」は漢の武帝が中央執権化を推進するとき、それを支える理念として董仲舒(とうちゅうじょ、紀元前176頃~紀元前104頃)が考案したものである。
この二つの「五倫」と「三綱」はともに東洋の伝統社会のなかで、儒教倫理の核心的な概念として認識されてきた。だが、その内容は見てのとおり、同じではない。「五倫」は各徳目において相手との双務的・横的な関係を指向しているのに対して、「三綱」は服従的・縦的な関係を強調している。「三綱」概念は、言ってみれば、政治的・社会的に上に立っている者―部下に対しての上官、子どもに対しての親、夫に対しての妻、年少者に対しての年配者―の都合をよくするために作られた、「五倫」を「改悪」したものというべきかも知れない。
今の時代、儒教というと、個人の尊厳を損なう服従倫理、家父長的な権威主義、個人の自由を抑圧する理念的装置の代名詞として違和感を覚える人も多いと思うが、その原因の一端は間違いなく「三綱」概念が提供したのであろう。しかし、そればかりが儒教ではない。否、むしろ、それは改悪されたものであり、儒教倫理の本質とはいえないものである。
儒教のいう家族論理においても同じことがいえよう。むろん、理由はどうあれ、家父長的な権威主義・服従倫理も儒教の家族倫理が持つ一つの顔ではある。しかし、家族の危機がとりざたされている今日、儒教の家族倫理には現代人が耳を傾くべき多くの知恵が潜在されている。その点において、儒教の家族倫理の真面目を今日に必要なものとして再吟味し、その長所を積極的に開発することの意味は大きいのではなかろうか。